東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)229号 判決
事実及び理由
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、審決の取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第六号証によれば、引用例は、建築用板一般に使用可能の保持具に関し、「衝撃又は風圧により建築用の板が外れることのないように、また損傷個所のみを取り外してその部分のみの取変えが可能なるよう」(第一頁右欄第一行ないし第五行)考案したものであつて、その構造は、水平板1の左右両端を内側方向に対称的に折曲げて取付部を形成し、更に中心部の方向に対称的に斜に折曲げて斜板部3を構成し、該斜板部3に続いて水平受部4を有する嵌合部5ならびに外側方向へ展開状に折曲する挿入部6を左右対称的に形成して構成されていることが認められる。従つて、引用例の保持具においては、損傷した建築用板8を取替えるときは、水平板1の左右両端に対称的に折曲げられて形成された取付部2に対称的に更に斜に折曲げて形成された斜板部3、嵌合部5、水平受部4、挿入部6の一方側を外方に傾斜させて損傷した建築用板8を引抜き、次いで新しい建築用板8を挿入して嵌合保持するものであることが明らかである。
これに対し、成立について争いのない甲第三号証、第四号証によれば、本願考案は、平版陸屋根に関し、「現場で簡単容易に作ることができるようにすると共に屋根の利用範囲を拡大しようとする」(甲第四号証第一頁第一九行ないし第二頁第二行)ため考案したものであつて、本願考案の脚部兼用係合溝体4は、その要部断面が<省略>形状をなし、その上方水平面(その面の大小について特に限定はない。)が天板1の裏面水平面と対応して当接係合し、天板1を支持し、かつ係合部5、6と係合突条10が水平面同志で圧接し、同時に空間8の下方に位置する垂直部が、空間8を形成する左右両側の対称的な外壁部にかかつた荷重を支持する(屋根職人が取扱うとの詳細な説明の記載のほか、耐荷重度の大小の程度に応じて必須とすべき形状・構造・組合せに関する格別の限定も、また、本願考案上認められない。)と共に、大風等により天板1を上方に持ち上げる作用力が加わつても、上方の水平面の折曲部と係合部5、6との間の左右垂直部との間に二枚の天板1が挟持されているので、天板1が吹き飛ばされることなく、また、一旦係合されると各係合機構を損傷しなければ、天板1を抜き出すことが不可能な構造を備えていることが認められる。
以上のとおり、引用例の建築用板の保持具と本願考案の平版陸屋根の脚部兼用係合溝体とは、係合される建築用板体(引用例の建築用板、本願考案の天板)の対象の相違にもとづいて、その具体的構造を若干異にし、かつ係合される板体の取替えの難易性に差異が存するが、前掲甲第六号証によれば、引用例においても、左右水平受部4に建築用板に設けられた水平係合部11を嵌合係止させて、一旦建築用板が保持具に嵌合係止されると容易に抜け出すことがないという建築用板体の保持機構が示されていることが認められ、従つて、建築用板体の保持機構の点において、また建築用板体が一旦保持機構に係合されると衝撃又は風圧により外れることがない機能を有する点においても、引用例と本願考案とは異ならないことが明らかである。
ところで、成立について争いのない乙第一号証によれば、周知例は、二枚のコ字状構材1を背合的に接合し、その接合面に凹溝2を形成するようその縦片を屈折して構成する母屋と屋根板3の側辺を屈折し、屋根板の屈折片4を凹溝内に嵌入した屋根構材との結合構造において、該屋根板の屈折部には凹条5を形成するよう屈折し、また母屋の凹溝開放縁に相当する屈折部にも該凹条と適合する凸条6を形成して、互いに適合(嵌合)させたものであることが認められ、右周知例が示すように、天板の両側端に凹条を設けて折曲して係合部を形成し、天板の裏側を支承する上面の水平部とこれに続いて前記凹条と係合する凸条を設けて垂直に折曲げて空間部を形成し、その下方に続く二枚の板を接合して垂直壁とした平版陸屋根用の脚部兼用係合溝体は、本願出願前周知であり、その平版陸屋根が荷重の十分な支持に堪える機能を備えることは明らかである。
そうだとすると、本願考案は、周知例に示すような平版陸屋根の脚部兼用係合溝体において、引用例に示されている保持機構を適用し、天板に設けた凹条に代えてこれを水平の係合突条とし、一方、脚部兼用係合溝体の凸条に代えて水平係合部とし、係合突条と水平係合部とを嵌合係止するようにしたものであつて、このようなことは当業者が容易に想到できることであるから、本願考案は、周知例と引用例から必要に応じて当業者が極めて容易に想到できることというべく、審決に原告主張のような判断の誤りは認められない。
もつとも、審決が、相違点(ロ)について、本願考案と引用例のみをあげて対比する判示にとどまつていることに、適切さを欠くところがないとはいえないが、周知例は、天板の両側を折曲して設けた係合部を係合溝体に係止した平版陸屋根として例示されたものであり、弁論の全趣旨によれば、これが備える形状・組合せは、この種考案の類いでは、技術常識として当然相違点(ロ)についての判断の前提として関連しているものであるから、本願考案は、引用例及び周知のものにもとづいて、当業者が極めて容易に考案することができたものと認められるとした審決の結論には、結局誤りがないといわねばならない。
3 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案に関する事項は左のとおりである。
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四七年八月三〇日、名称を「平面屋根のための屋根素体」(後に「平版陸屋根のための接続機構」と変更)とする考案(以下「本願考案」という)について実用新案登録出願(昭和四七年実用新案登録願第一〇〇三八三号)をしたが、昭和五二年三月七日拒絶査定を受けた。そこで、原告は、昭和五二年五月一九日審判を請求し、昭和五二年審判第六四四七号事件として審理され、その間昭和五四年一一月七日付手続補正書によつて実用新案登録請求の範囲を訂正補正したが、昭和五六年七月二一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は同年八月一五日原告に送達された。
2 本願考案の要旨
一側及び他側を折曲垂下せしめて係合部2を構成し、かつ天板―の水平面より若干下方の該係合部2の内側に係合圧接部100を水平な面と成して係合突起3、係合折曲部9、係合突条10等の係合機構を形成した天板1と、前記係合突起3、係合折曲部9、係合突条10と係合すべくなしたところの係合受圧部101を水平な面と成して弾力性を有する要部断面が<省略>形状又は<省略>形状の係合部5及び6を相対向せしめて、二枚の係合部2の厚さより若干広い間隙部7を形成し、その下に空間8を形成した脚部兼用係合溝体4とから成り、前記天板1を脚部兼用係合溝体4に圧嵌合係止せしめてなる平版陸屋根のための接続機構(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
図面(一)
<省略>
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図面(二)
<省略>
<省略>
図面(三)
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